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保育士、保育園、保育業界に関する様々な情報をまとめています。待機児童問題や転職が多いとされる保育士の待遇問題など保育業界を取り巻く問題に鋭いメスを入れ、社会全体で解決していくキッカケ作りをしていきます。

政府発表の「待機児童」は2万3167人だが実際は171万人!?〜「保育園落ちた日本死ね!!!」の実態 -healthpress-

 「保育園落ちた日本死ね!!!」——。匿名のブログ記事が物議を醸して3カ月あまり。ツイッターでは「#保育園落ちたの私だ」のハッシュタグが白熱化、2000以上のリツイートも。民主党山尾志桜里議員が熱心に取り上げたり、自民党山田宏議員が「生んだのはあなたでしょう、親の責任でしょ」と反論したり、杉並区議員の「世を恨むかのような態度はどこかおかしい」のバッシングが炎上したり……。

 待機児童問題は世論を左に右に揺さぶっている。

 預けたくても預けられない、入りたい認可保育所に入れない、そんな待機児童が増えている。待機児童とは、子育て中の保護者が保育所または学童保育施設に入所申請をしても、入所できない児童をいう。いうまでもなく、保護者が仕事や病気などの理由で小学校就学前の子どもを保育できない場合に、子どもを預かり保育するのが保育所の役割だ。

 3月28日、政府は「待機児童解消に向けて緊急的に対応する施策」の中で、2017年度末までに50万人分の保育の受け皿を整備する方針を発表。5月中にとりまとめる「ニッポン一億総活躍プラン」では、保育士の待遇改善や人材確保に努め、待機児童ゼロに取り組むという。

政府が発表する待機児童数の統計にはカラクリが!

 では、実際のところ待機児童は増えているのか?  厚生労働省保育所等関連状況取りまとめ」(2015年4月1日)を見てみよう(カッコ内は前年比)——。

 認可保育所の施設数は2万5464カ所(1039カ所の増加)、定員は247万4554人(13万8830人の増加)。利用児童数は233万658人(6万3845人の増加)。定員充足率(利用児童数÷定員)は94.2%(2.8%の減少)。施設数も定員も年々増えている。

 一方、待機児童数は2万3167人(1796人の増加)。2万人超えは7年連続。0~2歳の低年齢児は1万9902人 (85.9%)。東京、埼玉、千葉、神奈川、京都、大阪、兵庫の7都府県、政令指定都市中核市での待機児童は73.7%を占める。待機児童が50人以上の市区町村は114(うち100人以上の市区町村が62)。最多の世田谷区は1182人、上位10市区で5156人。待機児童数は年々増えている。

 ところが、これらのデータにはカラクリがある。

 2001年、厚労省は自治体が独自の基準を定めて適切な保育をしている現状を根拠に、自治体が独自に助成する認可外保育施設を利用しながら待機している児童を待機児童から除いた。つまり、やむなく認可外保育所に通う児童や、特定の認可施設を希望し、空きがある施設の入所を断っている児童は統計から外されている。その結果、2001年は待機児童数が3万5144人から2万1201人へ、1万3943人も激減する事態になった。

 さらに、たとえば、育児休業を延長したら待機児童にカウントしない、ハローワークの求職は認めるが在宅での求職活動は認めないなど、自治体ごとに待機児童数の定義が曖昧で、数え方も異なるため、待機児童数の実態は把握し切れない。

 だが、民間シンクタンク社会保障経済研究所によれば、子どもを預けて働きたいが、保育所に空きがないと諦めて申し込まない児童を含めれば、潜在的待機児童は171万人に上ると推計している。推計の真偽はともかく、待機児童が増え続けている事実は変わらない。なぜ待機児童は増え続けるのか?

待機児童は増え続ける要因は何か?

 まず、自治体が新たに認可保育所をつくるための用地不足だ。認可保育所とは、児童福祉法に基づいて、施設の広さ、保育士などの職員数、給食設備、防災管理、衛生管理など国が定めた設置基準を満たし、都道府県、政令指定市、中核市が設置を認可した保育所をいう。

 だが、設置基準をクリアする認可保育所の用地を都市圏で確保するのは容易ではない。高い地価、財源不足、賃金が低く仕事がきつい保育士の就労拒否も追い打ちをかける。送迎によるクルマの騒音や渋滞、子どもの声を嫌う近隣住民の反対運動も激しい。

 待機児童が増える根本原因は、保護者の生活状況にある。とくに2008年のリーマン・ショック後、終身雇用・年功序列型の賃金制度が崩れるとともに、成果報酬型の雇用形態や非正規雇用が主流になったことから、雇用が一気に液状化した。その結果、共働き世帯が急増し、保育への緊急性が高まった。

 しかし、認可保育所のハードルは高い。認可保育所は、夫婦ともフルタイムで働く正社員の0歳児の入所が最優先されるが、翌年はその子どもが1歳児の定員を埋めるので、新規に申込む1歳児には、ほとんど枠がない。

 難題が山積するが、親の願いは一つ。仕事と子育てを両立しながら、子どもを無事に成長させることに尽きる。保育所を作れば、女性が働く機会が増える。女性が働けば、待機児童は減る。この単純明快な道理を阻んでいる悪因は何なのか?

 たとえば、スウェーデンでは、保育所への申し込みがあれば、自治体は保育所を確保する義務があるので、待機児童はあり得ない。次世代の育成を優先するのが国政の基本戦略のため、国民の合意を形成しながら、消費税25%の高福祉・高負担の社会保障システムは、高齢者の年金の支給水準を下げたり、受診を制限して医療費を抑制して公平にキープされている。

 かたや、日本はどうか? 児童1万人あたりの待機児童が沖縄・東京に続き全国3位の仙台市。雇用環境が良好で人口流入が活発化し、待機児童が激増する首都圏。結婚・子育て・介護の両立という壁に阻まれて働く女性が伸び悩む大阪。保育所の整備率が高く、勤労女性も多い石川・福井・富山の北陸地方。震災の影響で財政難に陥り、保育所の定員増を図れない熊本。保育所の整備が遅れ、所得が低い共働き世帯やシングルマザーが多い沖縄……。

 日本社会に蔓延している待機児童問題。一筋縄では行かないように見える。

 待機児童を抱える女性に「産んだのはあなたでしょ。親の責任でしょ」とバッシングできても、票田である高齢者に「年金も医療も介護も自己責任で払え」とは口が滑っても言えない。大衆迎合ダブルスタンダードは、政治の一選択肢かもしれない。

 だが、安心して子供を産み、働く意欲があるすべての人が働ける環境をつくる、それが「一億総活躍」のゴールのはず。「潜在的待機児童171万人ゼロ」に向かわなければ、この国の未来は危うい。