市川の保育所 また断念 近隣理解へ丁寧な説明を - 東京新聞
千葉県松戸市の社会福祉法人が同県市川市内に四月に開園予定だった保育所の計画を住民の反対で断念した問題で、市内の別の場所での新たな計画も住民の反対で断念していたことが分かった。前回と異なり、市への事業申請前に住民説明会を企画したが、子どもの声や道路の狭さへの懸念が相次ぎ、説明会を開けなかった。事業者は「近隣の反対が強かった」と話し、市によると別の土地を探すという。
同市の待機児童は今年四月一日現在、五百十四人で、全国ワースト九位だった前年から百四十一人増加。市は「住宅地は難しいと分かっていたが、理解ある地域かもしれず期待した。事業者も早めに対応したが、残念だ」(こども施設計画課)と話している。
市などによると、今回の計画地は最初の予定地から西へ約二キロの閑静な住宅街。来年春の開園を目指し、ゼロ~五歳児五十~六十人を預かる計画だった。建設予定地は約六百平方メートルで、現在は住宅。
社会福祉法人は今月十七日、地元自治会(五百五十六世帯)のうち、予定地周辺の約二十世帯を訪ね、説明会を二十一日に開催する案内文を渡した。翌日から市や事業者に対し、「静かな環境を求めて大きな出費をした。保育所は認められない」「前の道は狭く、混雑して危ない」などの抗議が複数寄せられ、計画を見合わせた。
近所の男性(61)は「手続きがおかしい。あいさつし、それから説明会の日取りだろう。交通トラブル回避に保育士が駆り出されれば、肝心の保育がおろそかになる」などと話した。
◆首都圏 相次ぐ中止や延期
保育所の確保が課題となる中、住民の反発で建設中止や開園延期に追いこまれる事例が首都圏で相次いでいる。自治体や事業者には近隣住民への丁寧な説明が求められている。
現在、五つの保育所の開園が予定より遅れている東京都世田谷区。区によると、計画公表時や着工前などの段階で説明会を何度も開く。一年近く話し合いが続くケースも。区が事業者とともに施設の必要性や待機児童の状況を伝え、住民の不安を聞く。子どもの声が気になるなら、二重窓にしたり、窓の場所を変えるなどして対応する。
区の担当者は「反対の声も区民の意見。住民理解がないと、建設後にトラブルになることもあり、必要な過程だ」と指摘する。
千葉大大学院園芸学研究科の木下勇教授(まちづくり学)は、千葉県市川市の事例について「いきなり説明会ではなく、地域の下調べが必要だった。住民が狭い道を理由に反対しているのなら、安全な通行や歩車共存など地域の課題と結びつけて考える契機にもできた」と指摘。
「市や事業者は、時間をかけてでも反対の理由一つ一つに耳を傾け、地域の課題として共有し、一緒に解決していく姿勢を見せることで対立が和らいだ可能性もある」と話している。