保育園新設 公園転用に住民反発 「遊び場つぶすのか」 /東京 - 毎日新聞
杉並区が打ち出した待機児童対策を巡り、住民の反発が続いている。新設の保育園用地に区立公園が含まれているためで、住民からは「子どものための遊び場をつぶして、子どものための保育園を作るのは矛盾しているのではないか」との声が上がる。一方、待機児童を減らすには施設整備も待ったなし。田中良区長は3日、住民の代表者らと面談したが意見は平行線をたどった。両者の溝が埋まらないまま、建設計画は動き出そうとしている。【五味香織、早川健人】
区は5月、現在の計画では来春に560人の待機児童が発生するとして、新たに保育施設11カ所、1000人分の追加整備計画を公表した。このうち4カ所は区立公園を転用。来春までに計2000人規模の定員増を図る。
しかし、区立公園が対象となった地域の住民説明会は紛糾した。「地域にとって大切な公園だ」「子どもたちの遊び場がなくなる」など、怒鳴り声が上がり、子どもたちが反対をアピールする紙を掲げる場面もあった。区側は、待機児童対策の緊急性や、来春の開設には短い工期で済む用地を使わざるを得ないことなどを説明した。
この間、田中区長も「時間をかけて用地を探せばいいという意見もあるが(育休の期限が迫るなど)切羽詰まった状況の人にとっては、先送りできない問題。土地の限られる都市部で暮らすため、譲り合ってほしい」と理解を求めてきた。3日には予定地の一つ、久我山東原公園の住民代表と対面し、新たな遊び場などの用地確保を提案した。
同公園は遊び場としてだけでなく、地域行事の拠点としても親しまれてきたという。約3000筆の反対署名が集まり、自治会副会長の藤井隆さん(66)は「保育園を作ることに反対ではない。公園を残してほしいだけ」と訴えた。母親らの代表の宇田川美幸さん(47)は、子どもの遊び場をつぶして保育園を作る矛盾を指摘した。
保育園の開設を望む保護者からは戸惑う声も聞こえる。3歳の長男がいる女性(39)は「保育園の定員が増えることには賛成だが、今の予定地がベストなのかは分からない。住民同士の対立にはしてほしくない」と語る。
保育園や幼稚園のマネジメント支援などを行う保育システム研究所(港区)の吉田正幸代表は、区の計画について「緊急性から、公園を使うのもやむを得ないと判断したのだろう。一時的に保育施設を作っても、将来的に公園に戻すなど、住民に受け入れられる方法を提案できればいいのではないか」と話している。
待機児童3分の1都内に
保育園に入れない待機児童は、主に都市部が抱える問題だ。厚生労働省によると、昨年4月時点の待機児童数は全国で2万3167人で、うち3分の1に当たる7670人が都内に集中していた。
保育園の開設は用地確保が大きな課題で、杉並区に限らず各自治体はさまざまな方法を模索している。目黒区は区庁舎の駐車場の一部を使い、来春の保育園開設を目指すなど、苦心が垣間見える取り組みもある。
また、通常は社会福祉施設が建てられない都立公園などを、特区申請して活用する計画もある。現在、世田谷区の祖師谷公園と蘆花恒春園、荒川区の汐入公園、品川区の西大井広場公園の計4カ所で予定されている。江東区も木場公園での特区申請を検討。杉並区は来春の開設に間に合わないとして、今回は特区による開設は盛り込まなかった。
一方、中央区は人口急増を受け、JR東京駅前に2021年完成予定の再開発ビルに、保育施設を新設する計画を打ち出している。低層階に80人規模の認定こども園を設ける。
このほか、港区と千代田区は7月から、新築ビルの一部に保育施設を併設できる制度を導入する。延べ床面積3000平方メートル以上のビルが対象で、これまでは1割以上のスペースを住宅にするよう求めてきたが、保育施設を設ける場合は住宅スペースよりも条件を緩和し、保育需要に応える。