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保育士、保育園、保育業界に関する様々な情報をまとめています。待機児童問題や転職が多いとされる保育士の待遇問題など保育業界を取り巻く問題に鋭いメスを入れ、社会全体で解決していくキッカケ作りをしていきます。

ブラック保育園が跋扈してしまう2つの要因 - 東洋経済

現場ではさまざまな問題が起きています(写真:Graphs / PIXTA

「保育園落ちた、日本死ね!」という刺激的なタイトルのブログ記事をきっかけに、待機児童や保育士の待遇改善など「保育園」に大きな注目が集まっています。育児に対する社会的なサポートの不足は少子化の要因とも議論され、今後の日本経済にとって重要な問題です。

私は社会福祉法人・学校法人が運営する全国の保育園で起きた事故やトラブルに対する「危機対応サービス」を手掛ける会社を運営し、これまで3万件以上のケースを知っています。

保育の現場ではさまざまな問題が起きている

待機児童を減らすための「詰め込み保育」、低賃金や高い離職率を背景にした「保育士のバラつき」、いつ重大事故が起きてもおかしくない「危うい保育環境」、親の目が届かないところでの保育士による「虐待やネグレクト」――。拙著『ブラック保育園のリアル』(幻冬舎)でも解説していますが、保育園問題に焦点が当たるにつれ、「各保育施設でどのようなレベルの保育が実施されているか」という現場の実態にも社会の関心が集まってきていると実感しています。

とりわけ、安全に関する問題は注目度を増しています。保育士が園内で園児に虐待行為を行っていたり、防ぐことができる死亡事故が発生したりしているからです。お子さんを預けるには危険な保育園が目立つようになってきています。この「ブラック保育園」が跋扈(ばっこ)してしまっているのには、大きく2つの要因があります。

まずは行政の問題です。今年3月、東大阪市社会福祉法人が運営する保育園で不適切な会計処理が行われていたという問題がニュースになりました。元園長と元副園長であった夫妻が業務上横領をしていたということで市が刑事告発したのです。不適切な会計処理は15年間にわたり、架空の職員給与や修繕実績のない園舎の修繕費などで合計1億1125万円。これに関して市長は「誠に遺憾。保育が適切になされていたかも疑問だ。きっちり指導、監査していく」とコメントを発表しました。

このような社会福祉法人の不適切な会計処理問題は、後を絶ちません。意図的に不正会計を行う園経営者に原因があるのは当然ながら、定期監査を行っている行政がそれを発見できていないという問題もあります。

上記の例では、行政は定期監査を行っているはずなのに15年間発見できていませんでした。それに対して市長は「保育が適切になされていたかも疑問だ」とコメントしていますが、このコメント自体が現行の保育制度の問題点のひとつを表しています。本来ならば、行政監査により保育が適切に行われていることを担保しなければならないからです。

保育施設はどこの施設を選んでも一定以上の質が確保されるように、最低基準として「保育所保育指針」を定めています。平成27年4月より運営基準として各自治体で条例も定められています。

しかし、それらが現場で実行されているかを確認するための行政監査が機能しなければ、絵に描いた餅になるのは目に見えています。

人材の質にも問題あり

二つ目に保育行政に関わる人材の質の問題があります。最近、突然湧き出ているニュースとして、保育施設整備が近隣住民の反対運動によって中止や延期になっていることがあります。この問題の原因は、行政と施設整備者の対人交渉能力の低さにあると考えられます。対人交渉能力とは、決して難しいものではなく、聞かれたことに対して、誠実に答えたり、問題点を整理して解決策を提示するなどしたりする能力です。いわゆる「ファシリテーション技術」のようなものです。

一般企業の場合、長のポストに就くためには、仕事をそつなくこなし、仕事のミスはなるべく少なく、犯罪に関わるような致命的なコンプライアンス違反はせず、会議をまとめ、部下を統率し引っ張っていけるような能力を持っていなければなりません。その能力が相対的に劣る人材は、ポストに就けず、同期からも後輩からも出世で抜かれる可能性があります。しかし保育の現場では、その仕組みが機能していない施設のほうが多いように思えます。

特に社会福祉法人の場合、施設長の息子や娘がいきなり施設長になることも多いのですが、その人が施設長の能力を兼ね備えているかどうかはわかりません。そもそも離職率の高い私立の保育施設の場合、1年目から施設長になるまで育つような人材は皆無といってもいいでしょう。保育士は国家資格であるがゆえに制度的に最低基準はクリアした人材ですが、施設長には資格制度はないので、質が担保されているとはいえません。

保育施設の質は、どのような保育を実践しているのかという保育内容よりも、どのような人たちがやっているのかで決まるというのが私の実感です。「何をやるか」よりも「誰がやるか」なのです。とりわけ、「誰が」の中でも施設長が及ぼす影響は絶大です。施設長によって保育士の定着率も変わりますし、保育士同士のコミュニケーションも変わります。現場の園児よりも施設長のほうに気を使わなければならないような保育現場で死亡事故が起きた事例もあります。

施設長が及ぼす影響は絶大だ

2014年7月に京都の認可保育施設で起きたプールでの死亡事故を受けて、同年10月に行われた京都市の特別監査では、保育・運営体制の問題点として、園運営において児童より自分への対応を優先する園長の姿勢という項目で指摘されています。

報告書によると「職員への聴き取り調査により、職員が園長個人への対応のため、保育士が十分に保育に携わることができない状態が生じていたことが判明した。具体的には、職員は毎朝出勤すると一人ひとり順番に1階の応接室に入り、床に正座するなどして園長にあいさつをするが、その日の園長の気分や相手によっては一人30分以上話し込むこともあり、その間ほかの職員が応接室の前で、自分の番を待つ状態が生じていた」と記載があります。

このように、施設長ひとりが施設全体の風土に悪影響を及ぼし、その風土によって引き起こされる重大事故も存在するのです。私の経験上、重大事故の原因として施設長や特定人物が影響していることが少なくありません。施設長に資格制度や養成制度を設けてもいいのではないでしょうか。

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現行の制度では、保育現場に大きな改善を起こすことは難しいと思います。私は営業マンの経験がありますが、「良い営業マンは、良いお客様が作る」と言われていました。保育施設も「良い保育施設は、良い保護者が作る」といえます。

良い保育現場を作るためには、保育施設と一緒になって改善していける保護者をひとりでも多く育成することが大切です。苦情や要望よりも、建設的な意見を暖かく施設に届けて、保育施設と前向きに歩んでくれる違いのわかる保護者が保育現場を変えてくれることを期待しています。そのためには、まず、園児を預ける保護者が保育制度や保育現場の現状を少しでも理解することです。