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保育所保育指針改定に関する提言を行いました。 - 東京大学 発達保育実践政策学センター

2016年5月10日に、厚生労働省社会保障審議会児童部会保育専門委員会(第6回)にて、保育所保育指針改定に関する提言を行いました。 保育所保育指針の章の構成・内容、及び指針各章内の内容(養護・アタッチメント、食、睡眠、園長の資格要件に関連する箇所)について、Cedepで昨年度末に実施した認可保育所対象の調査研究結果および学術的知見等に基づき、ご報告致しました。

事業/活動報告のページに関連資料を掲載いたしました。ぜひご覧ください。

 

保育所保育指針改定に対する意見書(資料)
東京大学大学院教育学研究科附属
発達保育実践政策学センター(Cedep)
1
関連する先行研究
2
※資料提供
遠藤利彦氏(東京大学大学院教育学研究科)
佐治量哉氏(玉川大学脳科学研究所)
清水悦子氏(NPO法人 赤ちゃんの眠り研究所/東京大学大学院教育学研究科博士課程)
生涯発達の鍵となるアタッチメント
• 子どもは容易に怖がる・不安がる存在
• そして泣きながら身近な誰かにくっつこうとする
• くっついて安全感・安心感に浸ろうとする
= アタッチメント
• 一日に何回も繰り返される至極当たり前のこと
• しかし、これがいかに確実に安定して経験できる
かが、生涯に亘る心身の健康な発達の鍵になる
3
アタッチメントに関する先行研究
4
安全感の輪
・・・→ 危機との遭遇
→ ネガティヴな情動経験(恐れ・不安・欲求不満等)
→ 「確かな避難所」への近接(アタッチメント)
→ ネガティヴな情動の調節 / 情緒的燃料補給
→ 「安全な基地」からの探索・遊び
→ 危機との遭遇・・・
• この輪がいかに自然にかつ確実に機能し得るか
→子どもの健やかな心身の発達のカギ
• 子どもの成長=徐々にこの輪を広げること
一人でいられるようになる
5
アタッチメントは心身の発達に影響する
心理的発達への影響
• 安定したアタッチメントは、自尊心、自律性、他者への基
本的信頼感、心の理解能力などの発達を支え促す
• 保育者とのアタッチメントと社会性や認知の発達との関連
も示されている
身体的発達への影響
• 恐れの状態は逃げるための緊急反応であり、心臓・血管・
内臓・脳神経系など、身体各所に大きな負担
→ 効率よく元通りにされないと形成途上の子どもの
脳や身体の発達にダメージ(e.g. 被虐待児)
• アタッチメント→内界と外界の間の「緩衝装置」
6
• 総睡眠時間の減少=昼間の睡眠時間の減少
昼間(8:00~20:00)と夜間(20:00~8:00)別に
みた全睡眠時間の週齢あたりの変化では、
夜間の睡眠が10時間程度であまり変わらないのに対し、
昼間の睡眠は減少
7
睡眠時間に関する先行研究
• 睡眠-覚醒のリズムは、月齢・年齢によって変化。
加えて、リズムの個人差への配慮も必要。
• 午睡の時間は、年齢とともに変化。
2004 Sleep in America Pollの1473名を対象とした調査では、
2歳児の43%、3歳児の74%、4歳児の85%、5歳児の98%が
午睡をしないという結果。
8
施設長の資格要件に関する海外の動向
国(地域) 施設長の資格要件の内容
オーストラリア
(クイーンズラン
ド州)
・保育に関する領域におけるadvanced diploma
・幼児教育ないしは保育に関する資格(最低3年以上 のコー
スで取得)
・幼児教育ないしは保育に関する大学院資格(最低1 年以上
のコースで取得)
ニュージーランド ・教育省長官が就学前教育施設の教育及び保育に関 して認定
する資格
アメリカ
(40の州・区)
・乳幼児教育に関する資格取得/訓練の受講/実務経験(州
によって異なる)
(例:ミシシッピ州:CDA資格(Child Development
Associate credential)もしくはミシシッピ・チャイルド・
ケア所長資格(Mississippi Child Care Director’s
credential)と2年の実務経験)
イギリス(大マン
チェスター州)
・レベル4資格を 取得済みないしは取得に向けて努力をして
いるべき(最もレベルの高い資格=Early Years Professional
Status(EYPS))
※西村他 (2010) 保育所長の資格及び資格取得方法と その後の研修のあり方に関する研究,
保育科学研究, 1, 22-48. (第2章の内容よりまとめた)
平成27年度 東京大学大学院教育学研究科附属
発達保育実践政策学センター大規模調査
全国の認可保育所対象
大規模質問紙調査の結果
9
※次ページ以降の内容は分析の途中経過であり、調査全体のねらいや背景、
方法、解釈にあたっての留意点などを含め十分ご理解いただいた上で結果
を使用いただくことが必要です。このため引用はお控えください。本調査
の最終分析結果は、後日正式に発達保育実践政策学センターより、報告会
やHPで説明を加え公表予定です。
• 目的:認可保育所における保育実践および労働
の実態を把握すること
• 対象:全国保育協議会に加盟している認可保育
所2500園を対象とした質問紙調査を実施
→1園につき5名が回答(回答率約48%※)









1 担歳任児のク先ラ生ス
3 担歳任児のク先ラ
5 担歳任児のク先ラ 生 ス 生ス
※遅着票集計中のため現時点では推計
調査の概要①
10
養護(アタッチメント)、食、睡眠に関する設問
1歳児クラス担任:1,330名
3歳児クラス担任:1,327名
5歳児クラス担任:1,306名 による回答
施設長のリーダーシップ、保育実践・労働環境
負に関わる負担感、自園の保育環境に関わる
評価・認識、安全管理に向けた組織としての
取り組みに関する設問
園長(資格あり):1,072名
園長(資格なし): 217名 による回答
※なお、回答に欠損のあった項目はリストワイズされるため、
回答人数は項目によって若干異なっている。
11
調査票の設問内容と回答者
1.アタッチメントに関する提言
12
保育所保育指針:
「保育者による子どもへの敏感な応答」だけで
なく「子ども自らが考えや欲求を表現しやすい
雰囲気への配慮」に関する言及も必要。
 子どもたちが求めるときは敏感に応じている
 子どもたちが自分の考えや欲求を表現しやすい雰囲気である
上記いずれも「アタッチメント(愛着)の形成」の基本
であるにもかかわらず、「とてもそう思う」と回答してい
ない担任保育士が6~7割である現状。
設問
2.食事に関する提言
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保育所保育指針:
食育」「基本的生活習慣」の観点に加え、発達
の個人差や個々の生活リズムをふまえ、「より個別
的な配慮やかかわり」に関する言及も必要。
 子ども一人ひとりの発達等に応じ、食事時間を配慮している
 子どもの食について保護者と情報共有・相談を受けている
食事は、睡眠とも関連して、発達や概日リズムによる影響
を受けると考えられ、個人差への配慮が必要。しかし、上記
の個別の配慮に関する項目で、 「とてもそう思う」と回答
していない保育士が6~8割である現状。
設問
3.午睡に関する提言
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保育所保育指針:
子どもの発達や睡眠-覚醒リズムの年齢による
違いや個人差という観点から、「より個別的な配
慮やかかわり」に関する言及が、乳幼児期全体に
関して必要。
 子ども一人ひとりの発達等に応じ、午睡の有無等を配慮している
 午睡中眠らない子どもは、別の遊び等ができるようにしている
睡眠は、概日リズム(睡眠-覚醒リズム)による影響を
受ける。しかし、上記の個別の配慮に関する項目で、
「とてもそう思う」と回答していない保育士が6~8割で
ある現状。
 子どもの睡眠について保護者と情報共有・相談を受けている
設問
4.園長の資格要件に関する提言
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保育所保育指針:
「施設長の責務」の章に、保育士資格の保有に
関する言及は一切ないが、保育の質の保障・向上
という観点からは、積極的に保育士資格保有につ
いて言及していくことが必要。
保育士資格を保有している施設長の方が、
自園の保育質向上のための取り組みをより行っていると回答
保育実践・労働環境に関する負担を強く感じていた
自園の保育環境の適切性を低く評価し、課題を認識していた
安全管理に向けた組織としての取り組みに関する4つの項目
について、より積極的に取り組んでいると回答

 

平成 28 年 5 月 10 日保育専門委員会関係者ヒアリング
保育所保育指針改定に対する意見書
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター
センター長 秋田 喜代美
特任講師 淀川 裕美
特任助教 高橋 翠
(本意見書は、上記以外にもセンター専任・兼任教員との相談のもとで共同作成された内容である)
本意見書では、時間の関係からこれまでであまり議論されてきていない点および私どものセンターで
昨年度末に実施した認可保育所対象の調査研究結果および学術的知見等に基づき、報告をするもので
ある。
1. 保育所保育指針の章の構成・内容への意見
(ア)「2 章子どもの発達 2 発達過程」について
・「おおむね何歳という記述がどのような保育行為によってもたらされるのか、発達過程と保育課程の
関係が現行指針や解説書では理解しにくい」といった意見を保育士養成校教員の方々から伺っている。
「発達過程」と現在第 3 章「保育の内容 2保育の実施上の配慮事項」をあわせて、保育課程や保育士
の行為と発達過程の関係を、乳児、幼児に関して記載する章構成とする方がわかりやすくなるのではな
いか。特に乳児に関しては、解説書を含めより詳しい内容が丁寧に記述されることが望まれる。
認定こども園教育・保育要領では、入園から卒園までにおける個人の保育経験の違いが意識された記
述となっている。地域型保育事業の推進によって、小規模保育や家庭的保育から保育所へという移行の
増加も今後見込まれる。乳児期から幼児期への移行や施設間の移行における発達の連続性の保障に関わ
る配慮についての記述も入れるとよいのではないか。
(イ) 「3 章 ねらい及び内容」について
21 世紀にもとめられる資質として、社会情動的資質(非認知的側面)や市民的資質・態度(異質なも
のの包摂や公正性)の育成が、国際的にも重視されている(OECD,2016; Schoon,2015)。自発性や意
欲だけではなく、柔軟性や忍耐強さ、失敗を乗り越えることなどの態度や資質に関わる記述が、全般的
な配慮事項あるいは特定の領域の内容の文に加筆されるとよいのではないか(鳴門教育大学・全国国立
大学附属学校連盟幼稚園部会,2016)。(領域「健康」にはしなやかな心と体、領域「人間関係」には、
けんかなどの葛藤やつまづき、折り合いをつけることは記されている。けれど人間関係以外にも、失敗
やくじけてもあきらめずに取り組むことは大切である。この点がこれからの時代の指針としてさらに幼
児期部分に加わるとよいと考えられる)。

2. センターでの調査結果および学術知見に基づく指針各章内の文内容への意見
(ア) 養護(ケア、アタッチメント)について
・先行研究からの知見(資料参照)
生涯発達においてアタッチメント(愛着)の形成が重要。子どもが不安や恐怖を経験した際、自分の
欲求や思いを表現し、特定他者が敏感に適切に応答することで子どもが安全感を得られるという見通し
を得、自律的に探索できるようになる。アタッチメントの形成は自尊心、自律性、他者への基本的信
頼感、心の理解能力などの発達を支え促すとともに、身体発達にも影響。
・Cedep 保育士対象の大規模調査の知見(資料参照)
「子どもへの敏感な応答」も「子ども自らが考えや欲求を表現しやすい雰囲気への配慮」も、全年齢
で 7 割程度が「とてもそう思う」以外を選択。すなわち、現状としてアタッチメントの形成という観点
からは、必ずしも十分なかかわりが保障されていない場合もあることが示唆される。
・上記知見からの示唆
アタッチメントの観点からは、保育士から子どもへの敏感な応答ということに加えて、そもそも子ど
も自らが保育士に対して欲求や考えを表現しやすい雰囲気への配慮が重要。
保育所保育指針の改定について
子どもの「表現」という用語は、領域「表現」及び「言葉」で頻出。保育士の「応答」という用語は、
「応答的な関わり」「応答的な触れ合いや言葉がけ」と記述。いずれも子どもの欲求や思いの(明示的・
非明示的)表現に対する保育士の応答的かかわりについて述べているが、子どもが自らの欲求や考えを
表現しやすい雰囲気とそうした関係の構築についての言及を加えていただくとよりよいのではないか。
(イ) 食について
・Cedep 保育士対象の大規模調査の知見(資料参照)
「子ども一人ひとりの発達や生活時間等に応じた、食事時間の個別の配慮」や「保護者との連携」で、
全年齢で 7~8 割が「とてもそう思う」以外を選択(特に 3 歳児、5 歳児で多い)。食に関する個の発達
や生活時間への配慮が、特に幼児において十分ではないことが示唆される。
・上記知見からの示唆
乳児はもちろんのこと幼児においても、登園時間の違い等、一人ひとりの生活リズムの違いをふまえ
た、食事の時間等の細やかな対応が必要。
保育所保育指針の改定について
「食」に関する内容は、食育の章や、基本的生活習慣、特に三歳未満児の保育に関する配慮事項で出
てくる(「体の状態、機嫌、食欲などの日常の状態の観察を十分に行う」「一人一人の状態に応じ、落
ち着いた雰囲気の中で行う」等)。加えて、食事は睡眠と同様、日々の生活リズムの影響を大きく受け
ると考えられ、より個別のかかわりができるような体制づくりが重要である点が書き加えられるとよい
のではないか。
(ウ) 睡眠について
・先行研究からの知見(資料参照)
乳幼児の総睡眠時間の減少は、昼間の睡眠時間の減少による。特に、午睡の有無に関する年齢別傾向
は、3 歳頃で 43%、4 歳頃で 74%、5 歳頃で 85%が午睡をしないことを大規模データが示している。一
方で、個人差への配慮も重要。
・Cedep 保育士対象の大規模調査の知見(資料参照)
「子どもの発達や睡眠-覚醒リズムの年齢による違いや個人差への配慮」や「保護者との連携」で、全
年齢で 6~8 割が「とてもそう思う」以外を選択。すなわち、全国的な現状として、午睡について個の
発達を配慮した取り組みが十分ではないことが示唆される。
・上記知見からの示唆
乳児だけでなく幼児においても、睡眠生理発達の年齢による全体的傾向と個人差の両方をふまえた細
やかな対応が必要。
保育所保育指針の改定について
午睡に関する言及は保育所保育指針では 2 箇所のみである(解説書では 14 箇所)。幼児の午睡に関
しては、各園での判断に任されている現状がある(午睡の必要のない子どもを強制的に寝かせる、ある
いはその逆も)。睡眠生理の発達という観点からは、乳児期だけでなく幼児期においても、睡眠に関す
る個別の配慮が必要である旨を、書き込むとよいのではないか。
(エ) 施設長の資格要件や研修受講について
・先行研究からの知見(資料参照)
「保育の質」において、施設長の能力や知識、リーダーシップが重要と指摘され、世界的にも研究が
盛んである(OECD, 2012,2015; Taguma et al., 2012; Iram-Siraj and Halette,2013.)。日本でも、施
設長にどのような資格や研修が必要か、また、そのような研修をいかに効果的に実施できるかといった
ことの研究の必要性が指摘されている(西村他, 2010)。
・Cedep 保育士対象の大規模調査の知見(資料参照)
保育士資格を保有している施設長は、保育士資格を保有していない施設長よりも、①リーダーシップ
の具体的内容として、園の運営や保育の質向上に向けた取り組みをより熱心に行っており(「自園の保
育実践への関与」で最も顕著)、②負担感を強く感じている(「労働環境に関わる負担」で著しい差)。
また、③自園の保育環境の適切性をより低く評価しており(課題を認識しており)、④安全管理に向け
た組織としての取り組みをより積極的に行っていた。
・上記知見からの示唆
保育の実践や運営に関する質の向上、労働環境の改善、保育環境の改善、施設単位での安全管理体制
という観点から、保育士資格を保有している施設長の方が、保有していない施設長よりも細やかに取り
組んでいることが示唆される。
保育所保育指針の改定について
「施設長の責務」の章には、保育士資格の保有に関する言及はなく「専門性の向上に努めること」と
いう記載のみである。保育の質の保障・向上という観点からは、施設長自らが保育に関する資格取得や
専門的知識を有し質の向上に努めることや、そのための研修受講の必要性などを努力義務として言及す
る必要がある。