保育士求人・転職情報も満載!保育業界について考えるブログ

保育士、保育園、保育業界に関する様々な情報をまとめています。待機児童問題や転職が多いとされる保育士の待遇問題など保育業界を取り巻く問題に鋭いメスを入れ、社会全体で解決していくキッカケ作りをしていきます。

記者の眼 待機児童問題、正社員優遇は正しいか - 日経ビジネス

最近、ニュースで「待機児童」という言葉を聞かない日はない。記事検索サービス「日経テレコン」で調べると、今年に入ってからの5カ月半で大手全国紙(日経、朝日、毎日、読売、産経)に「待機児童」という言葉が登場した記事数は1083だった(5月18日時点)。2015年1年間では1350だったので、今年に入ってから2倍近いペースでニュースに取り上げられていることになる。

 キッカケはご存知の通り今年2月、「保育園落ちた日本死ね!!!」と題したブログが投稿されたこと。国会で取り上げられ、政治の争点として浮上した。働く女性にとって子供を保育園に預けられないということは、休職期間の延長かキャリアの断絶を意味する。長年続いてきた問題にもかかわらず、ここまで状況の悪化を食い止めてこなかった政治と行政の責任は重い。

 参院選を控えて与野党が競うように対策案を出し合い、厚生労働省も3月末に緊急対策を打ち出した。安倍晋三政権が5月末に閣議決定する「ニッポン一億総活躍プラン」にも、保育士の給与アップなどの対策が盛り込まれる。

 だが、これで待機児童問題が解決することは無いだろう。本質的な問題に、メスを入れていないからだ。

賃金だけでは解決しない

 厚生労働省によれば保育士の給料は月22万円程度で、全産業平均より11万円安く、定着率が低い一因とされる。待機児童問題の解消には、保育士不足の解消が必要だ。認可保育園の経営が基本的に補助金で成り立っている状況を踏まえれば、待機児童問題の解消には、当面の対策として公費を投入しての賃金アップが必要となる。ただし、前述の賃金の調査対象は、私立保育園のみ。認可保育園の4割を占める公立保育園の保育士は公務員で、給与が低いとはいえない。対象は厳密に見定める必要がある。

 ただ、賃金アップだけでは、保育士離れは解決しない可能性が高い。社会福祉法人「どろんこ会」の安永愛香理事長は、「年功序列が当たり前で、決められたルーチン作業をこなすだけの保育所も少なくない。これでは、若い保育士はやりがいを感じられない」と指摘する。給料が全産業平均に近づいたとしても、同水準の賃金でもっとやりがいのある職場があれば、やはり保育士からの人材流出は止まらない。

どろんこ会は現場のアイデアを取り入れて保育のプログラムを改善している

 どろんこ会では保育士全員がアイデアを出し合い、保育プランを毎年書き換えている。効果的なアイデアを実現するなど、成果を上げた保育士には給与で報いるという。そうした取組みが若い保育士の支持を集め、今年4月入社の求人への応募倍率は約8倍以上だった。全国の保育士有効求人倍率はほぼ2倍、つまり2人の求人に1人しか応募しない状況であるのとは対照的だ。

保育士の給与アップや働き方改革は重要だ。だが待機児童問題を本気で解消するには、保育業界が抱える本質的な問題に向き合わなければならない。それは「経営努力を引き出しにくい構造」になっていることだ。

 保育料は価格が固定されているので、経営努力によって収入を向上させることがほぼできない。そのため経営者はコスト増につながりがちな、保育の質を高める取り組みがしづらい。保護者は認可保育園の希望を出すが、割当ては自治体が行なうため質の競争も起きにくい。「給料の低い保育士を、短期でローテーションさせるのが効率的」と公言する経営者までおり、低賃金の原因の1つと言える。

 経営努力がない組織は淘汰され、その結果、業界全体のサービスのレベルが向上していくのが資本主義の基本ルール。だが、認可保育園には経営破綻しないように公費を投入しているため、そうした力学が働きにくい。

「福祉」なのに裕福な家庭を優先

 根本原因は、保育が「福祉」であることにある。第二次世界大戦後、戦災孤児が発生し、乳幼児の死亡率も高かった。母子家庭で母親がフルタイムで働かざるを得ないといった理由で「保育に欠ける」子供を、市町村が保育所で面倒を見る。この考え方が今も残る。高度経済成長期も男性が家庭の大黒柱であり女性は専業主婦という働き方が主流だった。女性の社会進出が進んで共働きの家庭が増え、保育に対するニーズが変わっても、抜本的に見直されてこなかった。

 制度疲労は、限界に来ている。それを象徴的に示す事例の1つが、待機児童問題が発生している都市中心部の状況だ。非正規よりも正社員のカップルが優先的に保育園に入れる。両親ともにフルタイムで働いていれば、子供は保育を受けられないからだ。

 「ポイント不足で認可保育園に入れない。これでは仕事復帰は無理」。東京都内に住む女性は、こう諦め顔で話す。収入が低い非正規の女性は、出産を機に退職を迫られるケースが多い。パート勤務だった、この女性も例外ではなかった。だが辞めてしまえば専業主婦で、子供は保育を受けられるとみなされる。自治体にしてみれば保育園に優先的に入れる理由はなくなってしまう。女性達は、就職を諦めるか、割高な無認可保育所を選択するしかない。福祉の名のもとに、裕福な世帯が優遇される歪んだ状況が生まれている。

「高所得世帯には応分の負担をしてもらうべきだ」

 「一億総活躍社会」を本気で目指すなら、待機児童問題の解消は避けて通れない。障害や病気を抱えている親や子供、貧困家庭、母子家庭などに対する、福祉としての保育サービスは必要だ。ただし、適正な対価を支払う余力がある一般的な国民へのサービスを、福祉の延長線上で組み立てるべきではない。

 手厚いサポートが必要な一部の人に対する「福祉」を、補助金を使って全国民に適用すれば財政も運用のあり方も、破綻をきたすのは当然だ。学習院大学の鈴木亘教授は「独自に公費を使い、高所得世帯向けの保育料を引き下げている自治体もある。低所得世帯はともかく、高所得世帯には応分の負担をしてもらうべきだ」と指摘する。

 待機児童の発生は、需要に供給が追いついていないことを示す。本来ならビジネスチャンスに溢れた状況だ。ムダな補助金や不合理な規制といった、市場の歪みを生む要素を解消することが解決策となる。

 規制緩和で言えば、受給に応じて柔軟な開園ができる株式会社の参入をより積極的に促したり、手数料を自由化して保育サービスの高付加価値化を促したりすることが考えられる。親と保育園を直接契約にすれば、保育の質の競争を生み出すこともできる。

 子供の安全に対する規制については慎重に判断すべきだ。事故が起きている現状を考えれば、むしろ規制強化が必要な点もあるかもしれない。ただし経済面の規制緩和は、安全面とは無関係に進められる。待機児童問題解消に向け、できることはたくさん残されている。