保育士求人・転職情報も満載!保育業界について考えるブログ

保育士、保育園、保育業界に関する様々な情報をまとめています。待機児童問題や転職が多いとされる保育士の待遇問題など保育業界を取り巻く問題に鋭いメスを入れ、社会全体で解決していくキッカケ作りをしていきます。

海外駐在、さあ子どもの教育をどうする!? 乳幼児期に重要な母語確立と幼稚園選び - 東洋経済

お絵かきを楽しむ子どもたち。海外の幼児教育施設も特徴ある保育方針やカリキュラムを持っている。子どもが楽しんで登園しているか、注意深く見守りたい(oksix/PIXTA

外務省の海外在留邦人数調査統計(平成27年版)によると、海外に在留する日本人の総数は129万175人、このうち海外駐在員を含む「長期滞在者」の数は85万3687人にのぼる。海外赴任する日本人の数は年々増加の一途をたどっている。

かつての海外駐在員と言えば、40代50代がその中心を占めていたようだが、今は誰もが海外に行く時代。駐在員の層も20代から60代と広がりつつある。そして駐在員の若年化が進むにつれ、乳児や幼児を連れて赴任する家庭も増えている。ところでいざ幼稚園に通わせたいと思っても、どのような幼稚園があるのか、選ぶときにはどういったことを考慮すればいいのか悩む親は多い。多くの国で幼児教育は義務教育にはなっていないが、日本を離れた環境であるからこそ、わが子に適した集団保育の場を探してあげたいものだ。海外の幼稚園の特徴と選ぶときのポイントについて紹介してみよう。

子どもの様子を見て判断

幼稚園を選ぶにあたり、まず確認したいこと。それは自分たちが園に何を求めているか、ということだ。子どもは将来どのような方向に進ませたいのか、どのような子どもに育ってもらいたいのか。自分が子どもに、そして園に何を求めているのかがはっきりしないと、幼稚園選びも難しい。そうはいっても乳幼児期の段階ではまだ「わが家の子育て方針」や「教育方針」は、はっきりしないのも理解できる。なので、とりあえず決めた園に入園させ、子どもが毎日楽しんで登園しており、日々成長している様子がうかがえるのであれば、その園は合っていると判断できるだろう。逆にどこかミスマッチを感じるのであれば、転園を考える勇気も必要だ。

海外の幼児教育施設は名称がさまざまだ。アメリカを例に、それぞれの特徴を挙げてみよう。

プリスクール・ナーサリー

日本でいう幼稚園。多くの園が2歳半から4歳までとしている。園によってはトドラー(よちよち歩きの子ども)クラスを設け、2歳児から受け入れているところや5歳児のキンダークラスを設けているところもある。通常、開園時間は正午まで。私立の場合がほとんどで、保育方針は園によってさまざま。

プリキンダーガーデン

Pre-K、PKとよばれる。キンダーガーデンの前の段階でプリスクールやナーサリーと同じ部類。一般には3、4歳児を対象とした日本での年少、年中に当たる。多くの園が3時間のプログラムを提供している。

キンダーガーデン

一般的には小学校に上がる前の5歳児が対象。日本の年長に当たる。たいていの場合は小学校の建物に併設され、小学校に通う感覚になるため、義務教育だと勘違いされやすいが、ほとんどの州では義務教育ではない。半日制のところと全日制のところがある。

プレイグループ

図書館や公共施設、教会の一室を使い、親と一緒に乳幼児を遊ばせる育児サークル。プリスクールに上がる3歳までのところが多い。親が育児情報を交換したり、親同士のつながりの場として利用する人も多い。

デイケア

日本でいう保育園に当たる。働く親が預ける場合がほとんどのため、早朝から夕方まで預かり、週末も開いているところもある。チェーン化しているところや大きな病院に付属のセンターもある。ほとんどが民間だが貧困層の家庭には補助金が国や州から出される。

日本にない「Show and Tell」

日本の幼稚園は4月入園だが、海外の場合、新学期は国によってさまざまだ。オーストラリアは1月、ブラジルは2月、韓国は3月、タイは5月、フィリピンは6月、アメリカやイギリスは9月。ほとんどの幼稚園は随時入園を受け付けており、さほどこだわらなくても大丈夫だが、日系の幼稚園や人気のある幼稚園にはウェイティングリストを設けているところもある。

保育内容はそれぞれの園がユニークなカリキュラムを立てている。自由遊びのほか、グループでの意見交換や想像力を駆使し、材料と色で表現したり体を動かす遊びなどがある。特に日本の幼稚園では見当たらないのが「Show and Tell」という時間。これは自分の大切にしているものを家から持ってきて、それについてみんなの前でお話をし、お友達からの質問にも答えるというものだ。幼稚園の時期からこうした遊びを通じて、子どもたちはプレゼンテーション能力を磨いていく。

幼稚園を選ぶうえで重要なのはセキュリティーだ。幼稚園では子どもが勝手に外に出ないよう、ロックは大人しか開けられない位置に設置してあり、インターフォンでの双方確認は常識である。治安の悪い国ではガードマンがいるし、幼稚園バスの窓にもしっかりカーテンが引かれ、中が見えないようになっている。また子どもを迎えにいく際にも、登録した人しか子どもを引き取れないようにしていたり、迎えに来た人のIDをチェックする園もある。

合わせて確認したいのが設備や衛生状態である。年間を通じて暑い国の場合、エアコンの設備や園庭の日陰、お昼寝の時間があることが重要だ。給食の出る幼稚園であれば食料の衛生管理、そのほかおむつ替えの衛生環境、遊具の安全性もチェックする必要がある。こうした安全面や衛生面から日系の幼稚園を選ぶ家庭は多い。日系幼稚園の場合、日本から先生を呼び寄せたり、教材も日本から取り寄せたりしているため、現地の幼稚園より保育料は高めになる傾向がある。

まったく知らない環境に置かれると、大人でもその不安が永遠に続くように感じる。ましてや日本語が通じないとなると、相当なプレッシャーだ。できれば親がしばらく一緒に通ったり、言葉のわかる子を側につけてもらったり、愛用のぬいぐるみなどがあると心強い。それでも理由もなく泣き続ける、赤ちゃん返りやおもらしが戻る、チックやどもりの症状が出るようになったら登園を控えよう。まったく笑わなくなってしまった子が日系幼稚園に転園した途端、笑顔が戻った例もある。

母語が急激に発達するのは1歳から5歳

ところで、小さな子どもは言葉も習慣も自然に、しかも早くに身に付くと思われがちで、先のことをあまり心配せずに連れてくる場合が多い。そして特に英語圏に赴任の場合、なるべく早いうちに英語に慣れさせたいとの思いから、デイケアやプリスクールに入れる家庭も多い。その場合、考えなければならないのが母語の確立である。

海外における日本語の入ってくる量は、日本にいる時のわずか30%と言われている。その理由は3つある。まずひとつは日本語が海外においてマイナーな言語であるということ。海外はテレビをつければ日本語が流れてくる環境ではない。2つ目は小さな頃より海外で育つ場合、生活が広がるにつれ、物の名前などは現地の言葉が日本語より先に刷り込まれてしまうこと。最初に出会った言葉が記憶に鮮明に残り、後から入る言葉が定着しにくくなるのである。

たとえば靴を見たときに、これは「靴」ではなく「シューズ」である、との認識が起こり、残ってしまう。3つ目は日本語の語彙を広げてくれる大人が日本に比べて圧倒的に少ないこと。日本にいれば、乳幼児は家の中でも外でも温かい人間関係のもとで話しかけられ、語彙が着実に蓄えられる。しかし海外にいると、一歩家を出ると現地の言葉に囲まれ、日本語より外国語のほうが確実に刻まれるのである。

では母語の確立がなされないと、どのようなことが起こるのだろう。

人間形成の基礎となる母語が最も急激に発達するのは1歳過ぎから5歳ごろまでの間で、平均して1日6~10語、多い時期には10語以上もの新しい言葉を習得すると言われている。そしてこの時期を過ぎると、習得したそれらの言葉を土台として思考力や表現力が自然に広がっていくようになるのだ。

しかし、乳幼児期に日本語に接する機会が少ないと、それ以降の日本語がうまく伸びず、自分が相手に伝えたいことがうまく表現できなくなることがある。たとえば、「冷たい水を飲みたい」を「寒い水を飲みたい」と言ったり「厚い本」を「太い本」と言うなど日本語の使い間違いが起こったり、日本語に外国語が混じる表現をいつまでもするようになる。小さなうちなら笑い話で済むが、いつまでたってもこうした日本語しか話せずにいると、徐々に日本語でのコミュニケーションに支障をきたすようになり、その先の日本語での学習が難しくなり、帰国後も学校の勉強についていけない状態が長く続くようになってしまう。

母語の発達に役立つ絵本の読み聞かせ

ではどうやって日本語を育てていけばいいのか。それには家庭内では日本語で会話をするというルールを徹底させる必要がある。具体的には丁寧な日本語で語りかける、子どもの話を良く聞いて、日本語でない単語が出てきたら、根気強く日本語に直して返してあげる、日本語の絵本や教科書の音読をさせる、日本語でお手紙やEメールを書く、などが効果的だ。特に絵本の読み聞かせは日本にいる時以上に時間をかけてすることが、母語の発達に役立つと言われている。

母語は普段の生活に必要なだけでなく、理解力や思考力、自我の形成にも重要な役割を果たす。必要な時期にきちんと確立させることが心身の健やかな成長につながり、第二言語の確実な習得をもたらす。将来、子どもが日本を生活の場として生きていくことを望むのであれば、意識的に日本語に接する環境や機会を作ってあげることが大切だ。